聖なるチョコの日の、後日談
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


選りにも選って
“聖バレンタインデー”当日などという微妙な日に、
盗聴器捜索という極秘探査を遂行することとなったは。
欧米や海外にも販路を広く持つよになった芸術品、
高名な画家の手になる日本画専門の
国際窃盗団を追跡していたがためであり。
現代の画壇にその人ありとされている、草野刀月氏の作品も、
モダンな作風に特に人気が集まってのこと、
高額な日本画群へ 余裕でその名をあげられる存在となっており。

 「海外市場では、
  言い値で取引されているほどだそうですからね。」

伝統的な構図や技法にのっとった、
格式高い風雅な王道作品も勿論のこと多数発表しておいでだが。
堅苦しいと思われがちな枠を取り払うため、
流行小説の表紙装丁用の作品を描きもすれば、
シルクスクリーンの原版にと、
ややイラストチックな作品を提供したりもし。
お若い層にも入りやすい入り口をという活動にも
それこそ若かりし頃の昔からずっと貢献して来られておいでで。

  華族の道楽画家が
  大衆に媚びを売りおって、と、

画壇のお年寄りたちの中には、よく思わぬうるさ方も少なくはないが、
夢路ブーム以降、やや下降気味だった日本画への注目、
今や“和ブーム”の牽引力となったとまで言われるほどの存在で。
そんな氏の手になる、高名な作品の大半は、
依頼のあった贔屓筋のお宅に大切に飾られていたり、
有名な美術館の所蔵品として、ロビーなどへ常設展示されていたり。
たまに、名のある企業の応接室の壁なぞに、
判るお人には判るよに、さりげなく飾られていたりもするそうなのだが。

 『古手の作品を集めているという申し出があってね。』

個展というほどじゃあないが、
刀月氏の作品を中心に、
春を画題にした日本画での展示会を催したいと持ちかけられて、と。
知らない仲じゃあない好事家の方から連絡をいただいたのが年明けの頃。
いや、そんな話はどこからも聞いておりませんがと応じて、
まだ作品を渡す前でもあり、
問い合わせ直した方がいいですよと注意をしたうえで、
娘御の伝手、懇意にしている警部補殿に相談したところ。
新手の詐欺かと、なので その筋の専門家を紹介下さるかと思いきや、
絵画そのものを狙う窃盗団の暗躍を追っておいでだったのと、
手口や本拠地の土地鑑などが大きに重なったのだとか。

 そこでと、
 年末から立ち上げられていた捜査班の対象物件のリストへ、
 草野氏の作品も要注意をとの加筆がなされて。

そんな矢先に、
だったらこれも関係筋の暗躍だろかと、
盗聴の気配ありという情報が某所から寄せられたのであり。
そんなこんなで一味の行動範囲をぐいぐいと絞り込み、

 『盗聴というのは、
  その規模にもよりますが、
  そこそこ至近距離に常時居なければ、
  新鮮な情報を即座にと得ることは出来ません。』

いくら大枚がかかったブツ相手とは言え、
電信通話用のケーブルごと乗っ取るような、
そんな大掛かりなものだとは思えない。
そこまでやれば、

 “その筋の専門家も顔負けという伝手がおるからの。”

そう、ひなげしさんが“あれれぇ?”と速攻で気づくはずなので、
その恐れはないとして。(勘兵衛様までどういう順番…。)笑
探査の結果、
マイクと発信機がセットになったコンパクトな代物が見つかり、
周辺外部へ飛ばした電波を拾うという、
最もオーソドックスな格好でのそれだと判明したものだから。
此処まで来ればもはや秒読みとまで迫った捜査のその結果。
都内某所のアジトを急襲し、
ガサ入れ…もとえ、家宅捜索を行ったところ、
たんまりと押収出来た 日本画や仏像など美術品の数々は、
市場価値で億単位を下らぬ被害総額となったとか。
そんな中には、通報者でもあった草野刀月氏の作品も何点かあって。
既に盗み出されていたか、贋作とすり替えられていたかしたのだろう。

 “まあ、私の作品は真似しやすいですからねぇ。”

今時の若い人が描いた方が上手なんじゃなかろうかなんて。
いやそういう問題じゃないでしょうというのが
判っていながらだろう、
本人だから口に出来る、シビアなジョークを飛ばされた、
相変わらずにお茶目でダンディな画伯でもあったそうだが。

 「…お。」

そんな作品の中、
浴衣姿だろうか、和装の童女が手鞠を胸元に抱えている一幅が。
かむろのようなおかっぱ頭のそれは幼い女の子のようであり、
西洋画の写実物と違って、アールデコ風な描写のせいか、
どこの誰とも判らぬ横顔のはずが、

 「…シチだな。」
 「え? そうなんですか?」

竹林の中、何か聞こえたのか
少しだけ上げられたお顔は確かに色白で。
まろやかな曲線に縁取られた横顔も、
言われてみれば似ているかもだが、

 「でも、髪の色が…。」
 「何も現物に忠実でなくとも良かろうさ。」

ぬばたまの漆黒、
そんな色合いの髪を肩口までおろした童女の図だったので、
征樹なぞは まるきり気づかなかったものの、

 『馬鹿だな。
  草野画伯の出世作だぞ、童女図の連作は。』

あとあとで、小憎らしいがその道の通である旧知の悪友から、
そんな教えを垂れられることとなる佐伯巡査長だが、
実のところ、彼にはそれほど落ち度はなくて。

 “そうか、昔と同じところにホクロがあるのか。”

愛らしい耳朶の陰という微妙なところに、
だが、汚れなぞではなかろう鮮明さで。
小さな小さな点で記された特長があったので、
それであのお嬢さんがモデルだと、
気がついた勘兵衛様だったようであり。

 「では、保管庫へ収納しますね。」

公判が済んで容疑者たちへの裁定が下されるまで、
よほどの特例でもない限りは保管されることとなる証拠品であり。
どれも凄まじく高額とあって、それは丁寧に扱われており。
それこそ こっちからの事情という格好、
破損なんてさせたらどんだけ補償せにゃならんと思いますかと、
関係部署から泣きつかれ、
早急に返還と運ぶんじゃなかろうかとも言われているそうで。

 “まま、それは もはやどうでもいいんだが。”

大きくて重たげな手にはマグカップという、
一件落着どきのいつも通り、
安穏とした構えでおいでの上司殿を、ちらと見やった佐伯さん。

 “そか、それが曰くのブツですね。”

日本人だというに、しかももう結構な年頃だというに、
それに見合わぬ重厚さ、
荒ごともお任せの屈強精悍にして頼もしい肢体をしておいでの勘兵衛で。
その身へ余裕で似合うカーディガンは、
佐伯さんには初お目見得のブツであり。
浅いカーキイエローの、間違いなく手編みだろう大作を、
警視庁へ戻るとすぐさま広げ、そのまま羽織ってしまわれたものだから。

 『うあ、あんな大物作る子がいるなんて。』
 『間違いなく本命じゃん。』
 『しかも島田さん、速攻で着ちゃうし。』
 『何だ、知らなかったの?
  凄っごい可愛いお嬢様と、いい仲なんだよ、島田さんてばvv』

え〜ウソォ、やだぁ口惜しーとかいう
今更な可愛らしい悲鳴が ひとしきり給湯室で沸き立って。
新人や中堅は何だ何だと声のデカさにギョッとし、
古株は苦笑混じりに通り過ぎたという方の顛末だけを、
こちらは別の現場へ向かっていたため、
同僚のお仲間から笑い話のよにして聞いてた征樹さん。
何とはなく先に得心していたことへ、
やっと現物がお目見えしたという順番だったが、

 『今日中に渡せてよかった♪』

含羞みながらも、それは嬉しそうに微笑っておいでだった
色白金髪のお嬢さんだったのは見ていたものだから。

 「勘兵衛様。」
 「んん?」
 「そんな立派なものをいただいたからには、
  ホワイトデーには お返ししなくちゃいけませんよ?」

ふっふーと、どうしてだか彼こそが
それは楽しげに笑って見せた、巡査長殿だったそうでございます。




    〜Fine〜  14.02.20.


  *それは頑張った大作をもらった勘兵衛様。
   内心嬉しかったからこそ、速攻で羽織ってしまった顛末は、
   勿論のこと、ほぼ即日で、
   佐伯さんから白百合さんへ伝えられたそうでございますvv

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